Symposium / Activity 

講演 1

環境要因によるDNA付加体とゲノム変異パターンを指標とした発がん要因の探索

戸塚ゆ加里星薬科大学・衛生化学研究室)

要旨:

がんの発生には環境因子が大きく係っていることが良く知られているが、現在までにその本体が明らかになっているものは、ほんの一部に限られ、多くの本体はまだ良くわかっていない。最近、次世代シークエンサー(NGS)による大規模ゲノム解析が進み、様々なヒト腫瘍に蓄積する体細胞変異のパターン(変異シグネチャー)に注目が集まっている。変異シグネチャーは、がん発生要因となった多様な環境因子の曝露を反映しているが、現時点で変異シグネチャーと特定の環境因子曝露の関連が明らかになっている例は限られている。したがって、ヒト発がん要因を解明するために、環境要因に由来する変異シグネチャー情報の収集が重要である。

一方で、ゲノムへの変異導入は、環境中の化学物質によるDNA付加体の生成に起因するとされている。つまり、変異シグネチャーの誘発に寄与するDNA付加体の探索・同定が、ヒト発がん要因の解明に繋がると考えられる。我々は、液体クロマトグラフィー・高分解能精密質量分析装置(LC-HRAM)を用いたDNA付加体の網羅的解析手法(DNAアダクトーム)とNGSデータの統合解析によるヒト発がん要因およびメカニズムの解明に取り組んでいる。シンポジウムでは、これまでの研究成果について紹介するとともに、今後の発がん研究の展望について述べる。

略歴

・1987-1991 日本大学理工学部薬学科

・1991-1993 明治薬科大学大学院薬学研究科修士課程

・1993-1997 国立がん研究センター研究所 発がん研究部 研修生

・1999       博士(薬学)論博 (明治薬科大学大学院)

・2003-      国立がん研究センター研究所 がん予防基礎研究プロジェクト 研究員

・2008-      国立がん研究センター研究所 がん予防基礎研究プロジェクト 室長

・2010-      国立がん研究センター研究所 発がんシステム研究分野 ユニット長

・2021-   日本大学薬学部 環境衛生学教室 教授

  • 2024-      星薬科大学 衛生化学研究室 教授

講演2  

「環境要因への応答機序におけるエピゲノム変化が示唆するクロマチンダイナミクス」

 和田洋一郎 (東京大学 アイソトープ総合センター) 

要旨:

 我々は、血管内皮細胞を炎症刺激する実験系を用いたゲノム・エピゲノム解析を通じて、環境要因への応答機序における統合的な遺伝子活性化には、刺激後30分以内に観察されるクロマチン構造の変化が関与することを見出した。この現象は活性型RNAPIIが組織化された転写複合体仮説によって説明されることが示唆されたが、核内で迅速に形成と崩壊を繰り返す転写複合体の実体は充分に解明されていない。そして、その傍証となる遺伝子間遠隔相互作用も10分程度の一過性現象と考えられている。そこで、現在我々は、時間解像度を1分に上げることによって、マルチオミックスデータを取得し、この転写複合体の同定を目指している。本発表では、環境要因応答性遺伝子制御に関与する転写複合体仮説の背景と、これを支持するデータ、さらにその実証に向けた研究の方向性について述べる。

略歴

1992年3月 東京大学医学部医学科卒業

1992年6月 東京大学医学部付属病院医員研修医

1992年12月 帝京大学医学部付属市原病院集中治療センター助手

1994年1月 横浜労災病院循環器科医員

1995年4月 東京大学医学部付属病院第3内科医員

1999年3月 東京大学駒場オープンラボラトリー助手

2003年4月 ハーバード大学医学部ベスイスラエルダコネス医療センター客員研究員

2007年12月 東京大学先端科学技術研究センター特任研究員

2010年4月 東京大学先端科学技術研究センター特任准教授

2013年4月 東京大学アイソトープ総合センター教授、

      東京大学先端科学技術研究センター教授(兼務)

2016年度 東京大学総長補佐

2019年4月 医学系研究科(兼担)

講演3 

放射線被ばくの次世代影響に関する研究」 

内村有邦 (放射線影響研究所 分子生物科学部)

要旨:

放射線影響研究所では、その前身となる原爆傷害調査委員会(ABCC)が設立された1947年から、広島、長崎における原爆被爆者とその子ども(被爆二世)を対象とした調査に取り組んでいる。放射線被ばくの次世代影響に関して、被爆二世を対象として、出生時の障害や死亡の調査、染色体検査、生化学検査、さらには、がんや生活習慣病への罹患など、多くの調査が行われてきたが、これまでのところ、被爆二世への明確な影響は観察されていない。現在は、全ゲノムシーケンシングの手法を用いて、放射線被ばくの次世代影響を明らかにする新たな研究計画を準備している状況である。今回の発表では、放射線被ばくの次世代影響に関する、これまでの研究と現在の研究計画を紹介し、放射線被ばくの次世代影響の解明にとって、今後、どのような研究が必要になるか、議論したい。

略歴:

2002年3月 東京大学薬学部 卒業

2004年3月 東京大学 薬学研究科 修士課程 修了

2008年3月 大阪大学 生命機能研究科 八木健研究室で 理学博士を取得

2008年4月―20017年3月 大阪大学 八木研究室で、特任研究員、特任助教、助教を歴任。

2017年4月 放射線影響研究所 分子生物科学部 分子遺伝学研究室 室長

2024年7月 放射線影響研究所 分子生物科学部 副部長

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